空冷Zのエンジンをオリジナルフレームに搭載したRCMUSA A16。
その意義と性能とは如何なるものなのか、A16カスタマイジング
フィニッシュを行うサンクチュアリー本店代表中村氏に解説して貰う。
空冷Zのエンジンをオリジナルフレームに搭載したRCMUSA A16。
その意義と性能とは如何なるものなのか、A16カスタマイジング
フィニッシュを行うサンクチュアリー本店代表中村氏に解説して貰う。
オリジナルフレームA16についてまだよく知らない方が沢山おられると思います。なるべく解りやすくご説明を頂きたいんですが。
Z系の前後ホイールを17インチ化するカスタムはRCMにおいて主流のメニューなんですが、それをより進めた結果がA16なんです。
A16はZの17インチホイール化におけるカスタムの延長線上という事ですか?
そうです。逆に言えば18インチホイールのままであれば必要なかったものでもあるんです。
その辺をもう少し詳しく説明頂きたいんですが。
Zを17インチホイール化するとホイール直径がかなり小さくなるので車高が大きく下がる傾向があります。 その為長いフロントフォークを使ったりスイングアーム垂れ角を強くしたりして車高を従来と同じに保つんですが、これはあくまで補正であって完全ではない。補正はどこまで行っても補正なんです。しかも17インチタイヤというのはグリップ力も含めて圧倒的に性能が先行したタイヤが多いのでそのままだと車体が負けてくる。エンジンパワーが上がっていればそれは尚更でそこを対策する為にフレームに補強を施すんですが、これも本質的には完全解決できているとはいえません。サンクチュアリーのZ系フレーム補強にはステージ1・2・3と段階別メニューがあって、ステージ3がサーキット走行OKの最たるメニューなんですけど、今回のオリジナルフレームは言うなればステージ4として追求した結果、根本的に改革を施した姿だったんです。ステージ3をも超える全てが集約されたステージ4。これが1R9Sフレームだった。
なるほど突発的なものでなく、辿り着いた結果だった訳ですね。
はい。ステージ3まではノーマルフレームという素材をどうしたらレベルアップできるかに拘ったメニューでしたが、それはあくまでも素材が持つポテンシャルの範囲内での上限。どうしたって限界が見えていた。
しかもステージ4と名付けるからにはその名に相応しい性能を発揮しないといけないでしょ。でもノーマルフレームベースではどうしてもそこまで行けないんです。
素人考えかもしれませんが、ノーマルフレームをベースにA16と同じ様なフレームに加工すれば良かったのでは?と思ったんですけど。
そうですね、形は似せて造る事が出来ると思います。でも似てるだけで中身は大きく違う。実は形じゃなくて位置や寸法が重要なんです。1R9Sフレームはステアリングヘッド部とスイングアームのピボット部の位置・寸法が大きく変更されていて、ノーマルフレームとの比較でステムヘッド部は30mmダウン・25mmバックし、ステムシャフトも現行スーパースポーツマシンと同等の太さに大径化して併せて上下ステムベアリングも大型なものにしました。スイングピボットはシャフトをノーマルのφ16からφ20へ大径化し位置も10mmローダウンさせています。他にも沢山の高機能性が投入されてるんですが最も大切な要素はその2つで一番重要な事でした。これをノーマルフレームで実現しようとするとステムヘッドパイプを切断しなきゃ出来なくて、でもそれって完全に法規上問題あるじゃないですか。こっそりごまかして加工したフレームなんて堂々とお客さんに進められないですからね。そんな訳で正式に問題ないフレームを臨むならシャシーメーカーになるしか道はないと考えたんです。
カスタムバイクな訳だから何でもOKかと思ってましたけど、法規も考えての事だったんですね。
そうです。そこはとても重要だと思います。確かに自由なのがカスタムだけど肩身の狭い思いをしたり、調べてみたら実は違法だったなんてのは論外。フレームのステアリングヘッド周辺をカットするという作業はそういう領域ですからね。
それでアメリカ・カリフォルニアにオートバイのシャシーメーカーを設立して実現した訳ですね。
大変でしたよ。今だから白状しますがこっそりごまかす方にしようかと何度も思ったくらい(笑)
でも、ここまでお話を聞いてると、まるで17インチホイール化したRCM Zが実は今イチなんだと言う風にも聞こえてしまうんですけど、そこら辺はどうなんでしょうか?RCMオーナーの皆さん気になってると思うんですよね。
はい、まず誤解して欲しくないんですが、17インチシャシーで造り込んだZ系RCMは大変良く出来た優秀なマシンだという事です。ノーマルの18インチホイールからディメンションが大きく変化してしまう17インチホイール化ですが、現代の最先端パーツとそれらをベストマッチさせるRCM専用パーツを今のサンクチュアリーの技術でセットアップして造ったRCMは本当に良く走る!スポーツバイクとして確実に性能アップを果たしてるんです。実際、筑波TOTのSモンスターエヴォクラスにエントリーしていたRCM-240 Zレーサー1号機は、ノーマルフレームをベースにRCMと同じフレーム補強や加工を施した車体で59秒913の公式ラップタイムを叩き出しているし、性能面で問題ある車両だったらとてもそんなタイムは実現出来ないから17インチ化したZ系RCMが本当に優秀である事がわかります。
確かにレースの実績は真実以外の何ものでもないし、Zのフレームベースで造られたRCMはむしろ逆に優秀なのだなとわかりました。でもそれなら尚更、よけいオリジナルフレームの存在と必要性がよくわからなくなるんですが。
17インチシャシーで製作されたZ系RCMの性能が十分満足できる優秀なものである事は確かな事なんです。ところがZ系の17インチ化には実はまだ先があるんですよ。それはフレーム補強の事なんかじゃありません。補強に関しては今までのメニューで十分事足りますからね。じゃあそれは何かと言えば、フレームの寸法であり根本的な構造の違いにあるんです。
よくわかりにくいんですが、どういう事ですか?
もうノーマルフレームにいくら手を加えても大きな進化は望めないんです。フレーム補強だってこれ以上沢山施せば良いってものでもない、増やせばむしろ色々悪くなる。フレームヘッドキャスターの角度を変えるのだって昔から実施してた所は沢山あったけど、でもそれっていわば車体セットアップの延長線上の話なんですよ。キャスターやトレールをフレームヘッド側で変えるって発想であって悪くはないんだけど根本的な解決にはなっていない。実はもっと求められていたのはシャシーの軸線、すなわち車体ロール軸の変化が欲しかった。フレームヘッドパイプの位置を低く、手前の位置に移動させる事で今のスポーツバイク寄りにする事。もう一つは高剛性な最新パーツに相性良い大径の軸剛性を手に入れる事で、大径のステムシャフトに適した大型ベアリングを採用する事。となると、フレームヘッドパイプ本体そのものも太くて高剛性な寸法な物でなくては出来ないから、じゃあそれを実現させるとなるとフレームヘッドパイプを一端切り取って別でヘッドパイプを作り元に戻すという作業になる。でもこれって先ほども申し上げた通り違法行為となるから、絶対に出来ない事。考えた結果、だったら最初から法規に準じたフレームを造ればいい。それもきちんと登録が出来る正式認可されたものをとなって今に辿り着いたんです。
なるほど、ノーマルフレームの強化路線ではなく、もっと大きく抜本的に現代のスポーツバイクに近い車体を求めたという感じなんですね。
そうです。それが前後17インチホイールに適した本来のフレームジオメトリなんです。
A16のフレームは見た目に高剛性に見えるから、そこが利点なんだとばかり思ってました。
確かに見た目でよくわかるのはそこだけですからね。でもその他にも色んな部分で大きな利点があるんですよ。例えばですが、ノーマルフレームをベースに17インチ化したZレーサー1号機は練習走行の度に当然メンテナンスをするんですけど、ステムベアリングの点検をしようとアンダーステムを外した途端、コローンってベアリングレースが勝手に抜け落ちて来る。本来ヘッドパイプに圧入されてるはずのレースが緩くなって落ちてしまうんです。で、よくよく見るとフレームヘッドパイプ側が前後楕円に広がっていて、これじゃ落ちるわという状態になっている。原因は高剛性な上下ステムにφ43のフロントフォークを組み合わせてフルブレーキングを繰り返した事にあり、皮肉にもフレーム本体側も補強で高剛性化されているもんだからよけいステムベアリングだけにストレスが集中していたんです。何もこれは今始まった事じゃありません。昔からZ系レーサーでは見られる光景で経験された事がある方もいると思います。こういう症状がノーマルフレームの限界を露呈している所で、実は他にもいくつかあります。
ステムベアリングの話は聞いた事があります。足回りの剛性が高くなった事による弊害だった訳ですか。
ノーマル、あるいは18インチホイール車であれば問題は起こりません。17インチ化したからこそ起きた症状なんです。しかもフレームを補強すればするほどより酷くなるから17インチ化した際の最大のウィークポイントとも言える。現代の足回りパーツはZのノーマルフレームに着けるとなると本来は根本的に企画が違うんですよ。それはスピードレンジが上がれば上がる程はっきりした症状となって細部に表れるんです。
意外でした。本当はベストな相性ではないんですね。
Z系RCMはバランス良く造り込まれているのでネガな面は殆どありませんが、実は決して相性良い組み合わせではありません。見た目がカッコいいと性能も良いと錯覚してしまいがちですよね(笑)。でも本当はそうじゃない。実はこれ、RCMに限らず全ての17インチホイールZに言える事なんです。
Zのストリートカスタム車を見てるとどれもカッコ良いから、何もかも素晴らしい車両なんだと思ってました。
レースをやっていなかったらRCMも見た目だけを追求する路線だったでしょうね。ストリートだけだったら気が付けなかった事が一杯ありましたから。とはいっても、別にレースをする訳じゃないから関係ないと思う方もいるかと思います。ですが、何もレースの速度域でなくても十分よくわかる事なんですよ。例えばステムベアリング一つとっても余裕のない車体と余裕のある車体とでは明かな違いがあって、それは低速走行時においてもはっきり実感できる。実は凄い違いを感じられるんです。普段走ってる実用域でのスムーズさや軽さ、安定感がまるで違うので、決して関係ない事じゃないんですよ。
レースとカスタムチューニングの関連性は重要な事なんですね。
そこが確信だと思いますよ。事実、世界中の大手二輪メーカーだってレースで開発した車両を市販モデルとして投入してるじゃないですか。むしろレースのフィードバックなしに良いストリートマシンを造る事って出来るもんなんですかね?とさえ思ってしまいます。今回のA16も元々は2006年
にオリジナルフレームのZレーサー2号機を造った事がそもそものルーツで、当時何台かオリジナルフレームのZレーサー達が登場して一気にレースのレベルを上げた。ノーマルフレームベースではどうしても越えられない壁がある事を当時から皆知ってたんです。そしてオリジナルフレームZは走らせて明らかにレベルが違った。もう10年以上も前の事ですよ。
A16誕生のルーツがレースにあった事。そしてレースで育まれたマシンであり、それがストリートにも大きく影響している事がわかりました。
ありがとうございます。実は今A16の試乗車を用意しようと思ってまして準備段階にあります。言葉だけでなく沢山の人達に実感して貰いたいので、機会ありましたら是非乗って体感して頂きたいですね。